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菓子・洋菓子どちらも最高の一品を。
川棚町で半世紀以上愛され続ける老舗菓子処

長崎県東彼杵郡の川棚町。この町を流れる川棚川のほとりに、一軒の菓子処がある。

その名も『菓舗 いさみ屋』だ。看板商品であり、地域住民から長く愛される『川棚まんじゅう』をはじめ、和洋を問わず幅広いジャンルのお菓子を販売している。

現在代表を務めるのは2代目、尾﨑勇一さん。本場フランスでも経験を積んだ、生粋の洋菓子職人だ。和菓子職人だった創業者の故・尾崎勇さんからバトンを受け継ぎながら、この川棚の町で66年以上にわたって店を繁盛させてきた。

「引き継ぐからには、常に商品を進化させる必要と責任を感じていました。現状のレベルで満足した時点で終わりだと思っています。どんなに人気のお菓子でも、全員に『おいしい』と思ってもらえることはないでしょう。それでも、そのパーセンテージを上げていく。立ち止まることなく、”もっと美味しいお菓子を作るためにはどうすれば良いか”を意識しながら作っています」

会社は業績が上がれば成長する。しかし、食を作る者として、さらなる美味さを追求する姿勢は、昔も今も変わらない。

「自分のところで作っている商品ひとつひとつのクオリティを高め、全て安全でより美味しいものにして提供する。経営していくには、他にもいろんなことをしなくちゃいけないんですが、常に気持ちの中に置いています」

和菓子も、洋菓子も。
素材や工程に拘り抜く

人々に50年以上愛される、一口食べると懐かしい気持ちにさせてくれる「川棚まんじゅう」。1日平均3000個が売れる、いさみ屋の看板商品だ。店頭で蒸される様を見て、湯気と匂いにつられて入ってしまう人もきっと多いだろう。先代が長い年月をかけて作ってきた看板商品は、完成することはなく今も進化をし続けている。

「一番大事にしているのが『あんこ』。あんこには鮮度があります。昔は製餡所からあんこを取り寄せていましたが、25年くらい前から思い切って製餡のプラントを投入し、豆から自分で炊いて製餡している。そこまでしているお店は、県内でも数件です。川棚まんじゅうに関してはある程度完成しているものなので、当時先代が作ったものとほぼ変わらないんですが、自家製餡するようになってからは小豆や白餡のインゲン豆にこだわり、素材を見つめ直すことにも注力しています」

製餡は、餡の製造・加工のことで重要な製造過程。あんこは、1日してならず。原料となる小豆は、同じ時間、温度、タイミングで煮ても、同じあんこにはならないという。小豆を煮て、水を切るタイミング。そこにも職人の磨かれた技術があるのだ。

また、いさみ屋には和菓子屋にとっては一風変わった設備も多い。洋菓子職人の尾崎さんが営む和洋菓子店ならではの光景だ。和菓子に加え、数々の洋菓子も日々ここから生産される。そして、新しい商品を生み出すことにも余念がない。これまで生み出してきたお菓子の中で、一番思い入れのある商品は『川棚かりん』というかりんとう饅頭だそうだ。

「ちょうど発売して10年になります。何か新しいものを作ろうとなった時に、妻が南関東のお菓子屋まで視察に行ってきて提案されたのが始まり。各地でかりんとう饅頭は出ていますが、黒糖にこだわりを持ったりするなど差別化をしています。40個からのスタートし、天ぷら油で揚げたのをよく覚えています。それが、今では1日1000個、レコードは1日3000個なので新たな看板商品になりました」

工場内を見学してみる。お菓子に対する熱い思いで、全ての工程を自社工場で行っている。スタッフも良いものを作りたいという気持ちで働いている。そう考えると、工場内の風景は見ていてとても感慨深いものがある。

「ひとりでお菓子は作れない」。
菓子に向き合い、人に向き合う

尾崎さんの話を伺うと、お菓子に、人に向き合って初めてお店特有の空気が築かれていくことに気付かされる。

「先代がいた頃は、自分が失敗したとしても、どこかで尻拭いをしてくれるような後ろ盾があった。それがなくなった時、本当の意味で経営者として考えさせられました。ただ、そこでいろんなものが見えてきた。そのひとつが、”ひとりでお菓子は作れない”ということ。いくら腕の良い職人がいようとも、それを支えてくれる人、その人たちと一緒に上手くお店を回す経営力がないと成り立ちません」

現在は、15名のスタッフに、アルバイトやパートが加わってお店を回している。社員一人一人が、尾崎さんのお菓子や顧客に対する想いに賛同し、動く。その心配りは、お菓子の味にも接客にも表れている。

「今働いている人の中には20代もいます。よくやってくれるので、いろんなことを任せています。調理師学校を出て和菓子を作りたいと来てくれたり。ただ働くというのではなく、”お菓子が好きだから”という想いで、みんな働いてくれるんでしょうかね」

職人と聞くと、ひたすら厨房で寡黙に作品と向き合うイメージがある。だが、職場内の空気は重苦しくない。それは、縁を大事にするという社風がそうさせているのかもしれない。

「”ご縁”は大事にした方が良いです。モノに向き合う仕事でも、人と向き合うことでもっと良い物ができます。どんな業種でも同じ。昔の人たちは職人気質が強く頑固でしたが、今の時代はいろんな世代を超えて一緒にやっていく。それが大事だと思っています。今の時代の流れであり、社会にとってもプラスになります。この年になって、ようやくわかってきたことです」

大事なのは”少し、心を添える”こと。
いさみ屋が続けてこられた理由

いさみ屋2代目として、洋菓子、和菓子それぞれの道を極めてきた尾﨑さん。これからの菓子職人のあるべき姿とは。

「まずは、基本のプロセスをクリアしていく。焼く、形を作る。お菓子作りは工程が決まっているので、一から十まで出来ればとりあえずは菓子職人になれます。そこから、自分という個性を出していくべきです。また、これはスタッフにも言っていることなんですが、”少し、心を添えてあげる”。そしたら、今よりも良いものができるんじゃないかと思うんですよ」

菓子作りは、配合や工程さえ間違わなければ誰が作っても似た味が作れるという。そこで、目に見えない配慮が大事になってくる。菓子に真摯に、シンプルに向き合う。お客さんの笑顔が見られるような菓子作りをしていく。心を添えてあげる。その心配りが職人にとって大事なのだと尾崎さんは語る。

「味に大きな変化は出ないかもしれませんが、その想いを感じ取ってくれるお客さんがいるかもしれない。機械で作る工程もありますが、手作業の工程もあるので殺伐と業務をこなすように作っていても味気ないと思います。あとは、辛抱強く、そして、お菓子作りが好きであることが大事です。販売するにしても、来て良かったと満足してもらえるような接客・サービスを心がける。なかなかに難しいことですが、そういった目に見えないことが、この先も愛され続けていくための必要な要素だと思います」

2020年は、コロナウイルスの影響で催事などの注文が減ったが、一年の売り上げを見てみるとそこまで業績は落ちなかった。いったい、なぜか。それは、地元のお客さんが甘味を求めに買いに来るからだという。真心を込めた味と接客で信頼を得ている菓舗だからこそ、これまでも営業を続けられてこられたのだ。

「売り上げを伸ばすことを考えるよりも、客入りを伸ばすことが大事だと思います。そうすると、対策が立てやすいです。よりお客さんに来てもらうにはどうするか、それを最優先に考えます」

創業以来、変わることない人気を誇るお菓子処であり続ける理由が、ここにあった。

※インタビュー時は、一部マスクを外していただいてます。

(2021/8/23 取材 東 孔明)

有限会社いさみ屋

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